白雪

 前に滞在した国で暫く寝食を共にしていた女の子たちは、結構呑気でお喋りな子たちだった。
 ある眠れない雑魚寝の夜、ある子が意中の男性と『いくとこ』までいったのだと言い出した。
「え、何、何もーっ、やるなぁー」
 嬉しそうに楽しそうに頬を染めてつつきあう彼女たちを前に、あたしも愛想笑いだけでない笑みが溢れる。
 いつも食いつきのいい子が早速質問モードに入って、おふざけ程度のヒソヒソ声で尋ねる。
「お付き合いはするの?」
「わかんない。お互い明日はどうなってるかわかんないしさ。でもうれしいんだぁっ」
 当人は緩んだ頬を隠しもせずに無邪気に足をジタバタさせて笑う。
 同性のあたしでも、かわいいなあと思う。こんな子の頭をいつでも撫でてよくなるなら、明日のことなんかほっぽってお付き合いに踏み出してもおかしくないのにとも思う。
「何人目だっけ?」
 多分一番年上の子が伸ばした髪を弄りながら聞けば、当人はこともなげに指折り数える。
「うーんと……五人目かな。いやあ運いいよねぇアタシ」
 そして、うんうん、と噛み締めるように枕を抱きしめて、ごろんと寝返りを繰り返す。
 この子曰く『好きになった人にいいよーっていってもらえること』は単純に幸運なのだという。
「そんなにいいもんかなぁ」
 爪の甘皮をいじっていた子がぼやく。
「それぞれじゃない? 私は付き合う前とか、体目当てだったらヤだなって警戒しちゃうもん」
 別の子が答えて、それもわかるなーという空気がふんわり入り込む。
「…………わたしさ、」
 爪の甘皮を取り終わった子が、ぽつりと吐露する。
「はじめての感想『こんなもんか』だったし、そういうことしたって浮かれる気持ちもショックな気持ちも何もなくて、期待? とかもなくて、なんかすごい平坦な気持ちだったんだよね」
 その独白に、あたしはこっそり息を呑んだ。
 まるであのときの自分の気持ちと同じだったから。
「……だからさ、アンタ見てると不思議ぃ〜」
 爪を見るのをやめたその子が照れくさそうに、話題の渦中の子の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
 とても仲の良い子たちだった。
 彼女たちの生み出す光景には何度も心和ませてもらっていた。

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