Lovers!

 カメラの前で同級生はニコニコする。泣き顔を撮られても滅多に怒らず、毎日付けてる日記も請われれば晒し、アクシデントのやらせを仕込むスタッフに気づきながら平気で談笑する。
 特別おおらかでもなく、頭が弱い訳でもなくプライドがなさそうでもない同級生が何を思ってこんなことに協力しているのか俺にはよくわからない。
 ただ、最低の方向にオカズにされていることだけはわかる。若干、同級生の俺まで食い物にされた。誘導尋問されて使用許可適当に取らせられて、気がついたら演出付きで放送されていた。
「なーお前さ、こういうの嫌にならないのか?」
「へ?」
 件の同級生が珍しく一人で居たから、適当に声を掛けてみた。
「どう考えてもあいつら悪徳だろ。俺まで被害にあったぜ」
「あはーごめんごめん。確かにあの回のインダビュー無理があった。だってあんな臭い台詞あなたから聞けると思ってなかったもーん」
 あはあは快活にずぶとく笑う同級生をねめつけながら、母親があのインタビューで結構真面目に感動してたことを思い出した。クソッ。
「っつかお前そんなになんていうかずぶとかったっけ」
「えーうんうん、ずぶといですよ、いざとなれば。だって女の子だもん」
 女の子だもんってか弱さを強調するときの言葉だと思っていたが思い違いだったらしい。
「ふーん」
 それだけ言って、特に話題もなく、黙ってぼーっとする。前も、そしてこれからもこんな風に二人で居ることなんてないんだろうなと思う。同級生はまあ、同級生ってだけだし。相手にとってもそうだろう。
「あーそういえばさ」
 思いだしたように同級生は口を開く。
「同じクラスの女子ね、半分くらい騙されててウケるよー。感動のフィナーレに向けてすっごい盛り上がってる。簡単だね。トモダチにはなりたくないくらい。もーあいつらなんか攻略対象じゃないって感じ」
「え、お前乙女ゲーマーだったのか?」
「ちがうよ。ぷにぷにした絵の方が好きだからギャルゲーばっかだよ。ってかあなたもそういうの知ってる派?」
 そこまで言われてやっと口を滑らせたことに気づいたああっちゃー。とりあえず曖昧にあーとか言っておく。
「まあどうでもいいや。わたしも最近になってやり出したし」
「そうなんだ」
「スケジュールきっつきつで隙間時間が多いのさー」
 そして同級生はいつもカメラの前で見せているようなニコニコ顔をした。
「ね、あなたわたしが取材受けてるのどう思う? はた迷惑ってのはさっき聞いたからもう言わなくて良し」
 今度はにやにやしまくって超うぜえ。俺は正直に話すことにした。
「食い物にされてる感じはする」
「ほほーう」
「お前がどうしてそんな普通にしてるのか気になって……ってあー、嫌にならないのか? って聞きに来たんだよ俺」
「あ、そうだっけー?」
 自分のボケ疑惑にちょっと呆れながら同級生の言葉を待って、十秒くらい空を見る。
「嫌にはならないよ。あの人たちやテレビの前のみんなもわたしを食べてるけど、わたしだって援助は受けまくってる。なんかそういう結びつきって面白いよね」
「そうか?」
「奪い奪われ、食い食われ。なんかまるでさ」
「まるで?」
 俺にはとても出来ない発想で、楽しそうで、ちょっとのはた迷惑くらい許してみたくなる空気感で、同級生は言った。
「恋人みたいじゃない?」

なんか、ちょっとずつ指針がずれて当初の思いつきと全然違う味になってしまった気がする。

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