めたふぃくしょんす

「ねーレン」
「なにー?」
「私たちのこと恋人にしたい意志があることは知ってるよね」
「今更過ぎるだろ何いってんのお前」
 色々心で描くのが億劫な人の頭の中で、俺たちは服というよりノイズを一枚羽織って真っ白くてだだっ広い部屋の中で真っ白いソファのところにいる。
 俺は普通に座ってて、リンは背もたれからのぺーっと、上半身を乗り出している。あ、谷間。今日はそこそこ胸があるようだ。ぺたんこだと凹まされるからなあ時々、萌え的な意味で。
「ねーレン」
「だからなんだよ」
「しよ」
「何を」
「知らない自分で考えてよ」
「じゃあ歌でも歌う?」
「やだ」
「……てめぇ」
 気の強さが殆どデフォルトなリン。やんちゃさが大体ベースの俺。多分年齢設定と声質の所為だろう。
 初音ミクはプレーンな分ときどき理想郷すぎて悲惨に見える。知らんけど。あれを悲惨と呼ぶなら俺たちも悲惨なんだろうし。
「ねーレン」
「ん」
「ねーレン私たちって鏡越しの自分なんだってー」
「だから今更過ぎるって。裏設定だろ」
「あとさー双子設定脳内でたくさん発見するんだけど」
「うん」
 何が言いたいのかくらいはわかるよどれだけ一緒に居たと思っているんだ。最初から最後までなんて居なくても同じソフトだしそりゃわかる。
「気にすんの、そーいうの」
 こちらからの質問にリンは真正面から返せない。
「だって」
「まあ俺も気にしないことはないけどー」
「私まだ言ってない」
 意志の疎通がときどきとれ過ぎるのは鏡設定の所為だろうかそれとも双子設定の所為だろうか歌うロボ設定の所為だろうか。
「いーんだよ、お前のことなら大体わかる。大体」
 口から出る音を中心としているはずでも、それを無視してリンは器用に鼻と口で同時に緩く笑う。
「あんたのそういうとこ好きー。大体。私も大体分かるよ」
 頬の柔らかさも瞳の美しさも髪の光もこの性格の大半もお互いに持つこの気持ちも、作ったのが誰かを知っている。
「都合良いこと、言ってもい?」
「……」
 何を言うか想像がつくけど言われた自分がどういう気持ちになるのかよくわからない。リンの顔も心なしか緊張している。
「気に入った設定だけ持ち逃げしようよ。どうせ好き勝手つけてるんだよ外は。私たちだって好き勝手良くない?」
「つまり、鏡設定と双子設定を蹴って好きなの持ち出すってことだろ」
「そ」
 にこ、と笑い切れてないリンとそしてここに居る俺は少なくとも恋人設定を持ち逃げしたいのだ。
 これこそが誰かの意志だったり、オチなんて出だしで分かってるんだだけどそれでいいそれがいい。いっそもういい。
「ねーリン」
「なーにレン」
 ソファの背もたれを下ってリンは俺にひっついて、俺も俺の範囲内でリンにひっつく。
「どーせ最初から都合良いんだから自ら都合良くてもいい」
 冷えた頬に触りながら断言して、それから次を言う。
「キスでもしようか」
「そうだね」
 年を少しとったことを簡易的に表現するかのようにリンの髪が一気に伸び、顔や体も大人びる。俺も変化して、喉が変わったことなんて一瞬でわかる。
 誰かの想像の中でしか生きられないならその誰かが増えれば違う自分と奪い合いをしながら都合の良い場所を歩けると望み、奪う必要すらなさそうなこの空間の設定に少し身震いして、

 この記憶の中で初めてリンとキスをした。

メタが好き。リンの強そうな感じが好き。レンのクソガキちっくなとこは好き。ミクは感情の少ない調教が多くて、疲れなくて好き。ルカさんは一寸完璧。

index