どっちからだっけ。と一瞬考えてから、あ、私からだった。と思い出した。
ベッドから起き上がらないまま、岸辺が煙草を吸う背中を眺めて、ぼんやりと思う。
私はきっと、これから一生女とだけ寝るんだろうな。
特に不満ではないが、ただ、ただ、そうなのだろうと考えた。
私が寝る男がこいつでないなら、他のどんな男でもないだろう。きっと。
気まぐれ起こして岸辺をベッドに引っ張り込んだ切っ掛けは覚えていない。ちょっと酒が入っていたのは今の状態からも明らかだが、無駄に勢いづくほど飲んでたらあのタイミングであの娘を持ち帰っていたはずなので、そういうことでもなかった。
誘いをかけた当初、岸辺はかなり困惑していた。……とはいえ流石は私と同じく女好き、すぐにまあまあノってきた。
私は、触られるのも触るのも別に嫌ではなかった。息の匂いも煙が溶けた唇の味も嫌いなもんでもなかった。
ただ興奮するかというとそれがそうでもなかった。性的な感触も、すぐに擽ったいという感覚に流れていってしまって、今度は私が困惑していた。
気が萎えた。と言い出したのは岸辺の方だった。
バカ言えお前はそれなりに興奮してるだろ。と指摘するのは流石に野暮で、私はただ、うん。と頷いて肌着を着直した。
無理をすればあのままセックスはできただろう。
でも無理して気持ちよくないままヤるには勿体ない相手だ。
だから、私が今起き上がるのは、隣に腰掛けて貰い煙草をするためだ。
お互い半裸だが、多分今更、気まずくもないだろう。
「ほら、あーん」
「あぁ?」
いつも通う中華料理屋で、クァンシの奴が突然『今日の杏仁豆腐の出来栄えがいい』と言い張ったかと思えば適当に流そうとした俺に匙を向けてきた。
「いいから口開けろ」
聞き分けのない子供に食わず嫌いの食べ物を食わせるような態度で、クァンシは続ける。
最近連れてる彼女が比較的幼い方なのは知っていた。が、こんな習慣を持ち込まれるとは思わなかった。
「…………」
わざわざ反抗するのも面倒になり、俺は大人しく匙にかぶりつく。
「……まあ、美味いな」
「だろ」
俺が素直に味を認めると、クァンシは心なしか満足そうに顎を引いて、残りを食いだす。
「……………………」
水を一口飲んで、俺は店員を呼び止める。
杏仁豆腐を追加注文する俺を見て、クァンシは今度こそ満足気に声を立てて笑った。
一本目、きっしーの昔の気持ちを考えるといたたまれないけど好き。何もわかってない頃書いたやつだけど。