同じ団地の隣に住んでいる同い年の少女は、何年か前に二十歳を迎えたはずなのに、未だにぼくの中では少女だった。
ぼくらは小さいときから隣に住んでいた。幼馴染。高校生のとき次々に両親を失くし、色々あって、お互いにそのまま一人暮らしをしている。
ご近所は殆ど皆、おばさんとかおじさんとかおばあさんとかおじいさんとか。あと外人さん。若人二人は微妙に浮きながらも、なんとか暮らしてきた。
ぼくらはよく、ごっこ遊びをした。それを今でも、強く印象に残している。
回顧を失った瞼が黒を映して、次に目を開けて、瞳がニュースを映す。
テレビ番組は、世界が終わることを告げていた。
世界が終わると言っても、まだ全部が終わるかは確定してなくて、悪あがきをやめない人たちによって阻止はされようとしていた。
でも、世界が終わると聞いて、社会に出て一応大人になったはずのぼくは、ただ無邪気に「ああなんだ終わるんだ」と勝手に確定事項にして納得していた。
それは、隣の家の少女も同じだった。
鍵を閉めていない玄関から、少女は入ってくる。
「終わるまで、遊ぶ?」
生活感のない、音ではない空気の含有量の多い声で、ぼくを誘う。
ぼくも少女も、いつも周囲に「生活感がない」と言われてしまう。もしかしたらそれは、小さいときに繰り返したごっこ遊びのせいかもしれなかった。
「どうしよう」
ぼくらの『遊ぶ』は一種類しかなかった。
ぼくが語って聞かせて、世界を作る。景色をかたちづくる。海も光も草花も、何もかもがぼくの自由。
少女がその世界に、物語を紡ぐ。ぼくのと違って制限のあるそれを、彼女はきれいに泳いでいくのだ。
ぼくらの空想は調和して、和音のような残響を残す。
少女はサカナ。ぼくは神サマ。
「じゃあ、やりたかったけどやってなかったこと、しよう」
さりげなくテレビを消して、ぼくの顔を覗き込む。
「何をしてなかったの?」
少女はやりたいことは大体、全部思ったときにやる人だったので、少し意外に思った。
ぼくの問いに少女は陽を透かすような茶髪を耳に掛けて、はにかむ。
「未来の話しをして、それから、水」
「ああ」
合点が行った。なるほど。水。
ぼくと少女のごっこ遊びは、水から始まった。
何故かぼくは、最初の頃、水の中にしか舞台を用意出来なかったのだ。透明なはずのものが水色にきらきら揺らめく、水の中。
神サマのぼくとサカナの少女は、ずっと、水を好きにしてみたかった。原風景として刻まれている水の空想を、現実にしてみたかったのだ。この、ぼくらの住む場所で。
漠然としたままの、世界の終わり。
その前の、わがまま。
ぼくと少女はベランダに出ると、早速、ぼくの家の洗濯機を適当に殴打して、適当にぶっ壊した。
「こんなんで大丈夫?」
「だめだったら直接やろう」
直接、このベランダに水をふりまけばいい。
そして、行き当たりばったりに洗濯機を操作する。
じわじわ、水が溜まっていく。
水を覗きこむ少女を眺める。スカートの縁付近に淡くピンクの花があしらわれた、白いワンピースを着ている。
ぼくも水に目を戻した。もどかしくて、わくわくして、どうしようもない昂りを覚える。少年のぼくは自分の視線の高さと腕の長さに一瞬面食らって、すぐに我にかえる。どれだけわくわくしても、今のぼくの体は少年ではなかった。錯覚だった。
水が、洗濯機の臨界点に達した。
じわぁりと、水が溢れていく。
「きゃっ」
少女が至福の声を上げる。ぼくも、歓声を上げた。水が足元を浸食していく。
ベランダは、洗濯機の向こうは胸下までコンクリートがあり、それ以外は壁と部屋と胸下までの格子に囲まれていた。格子部分にも十センチほど盛り上がりがある。
だから、ある程度まで水が溜まっていく。
少女は尻もちをつくように座り込んで無邪気に笑う。
そして、水は溢れて、ベランダの端の、格子の一辺から溢れだした。
ぼくはつられて下を覗き込む。太陽の光を受けてきらきらと、水が落下していく。ベランダの中に視線を戻すと、青空を映した小さな青い海に、サカナが漂っていた。
仰向けに目を細めるサカナに、ぼくは頭で影を落とす。
「神サマ、今度の世界も綺麗だね」
ごっこ遊びのときの『いつもの褒め言葉』に、思わず頬が緩んだ。
三階のベランダで水を出しっぱなしにしても、誰も困らなかった。誰も居ない。この館に住む誰もが『もしかしたら』に賭けて別の場所に移動してしまったからだ。
世界にはぼくとサカナしか居なかった。
まるで、ぼくと少女で共有していた、あの世界のように。
「いつもは空想の中にしか作れなかった世界と空気だよ」
ぼくが笑うと、少女は吐息を漏らして、微笑んだ。
ゆっくり溢れていく水を止めずにぼうっと立っていると、サカナは神サマを物語に引っ張り込む。
ぼくは急に手を引かれて転倒した。
少女に覆いかぶさってしまったのですぐに体を起こし、尻もちの格好を取る。
「ふふっ」
悪戯っ子な笑みに、ぼくもつられて笑う。
少女はの笑顔がいつまで経っても無垢で居られているのは何故だろう。全部が空想なのかもしれないと思って、衝動的に少女の手に触れる。うん、ここに居る。
少女はぼくの手を握り返し、両手で包みこんだ。
「それから、未来の話」
そういえば、先程も言っていた。あまりにも、気に留めていなかった。
「う、ん」
つい返事に詰まる。
「わたしね、長編ってきらいなの」
「なんで」
「続くと、永遠がなくなってしまうから。こわいの。なくしたまま続くのが」
まるで他人が語る『現実』に似た長編の性質に、少女は目を伏せる。
「だから、未来がないから、未来の話をしよう」
失うことが前提なら、きっと大丈夫だよ。
少女の瞳がそう語っているのがわかった。耳の裏が熱くなる。かぼそい、悲鳴を思い出した。
少女の両親が居なくなって半年の頃だった。死んでいたり、事情があったりするのだろうと思っていたぼくらに飛び込んだニュースは、少女の両親が死んだこと。
だけどそれは、死んだというだけではなかった。少女の両親は少女を置いて、二人で、狭い部屋でどこへでも行っていた。注射痕だらけの腕で。
少女を捨てて、楽しんでいた。それだけがぼくらにとって真実だった。居なくなったままならよかった。少女のまだ両親を必要とする物語を捨てて、少女の両親は別の物語を楽しんでいた。
永遠に思えていた絆を最低な形で失った少女はあの日、涙の前に、かぼそい悲鳴を上げたのだ。
ぼくは体が熱くなった。涙を震い起こすような熱を原動力に、少女の肩を抱き寄せる。
あのときぼくは神サマとして、自分の世界のサカナに、出来る限りの綺麗な世界を見せた。何度も、何度もそうして、そのうち、サカナは笑ってくれた。少女はぼくの手を握ってくれた。
「どうしたの」
「…………いや」
ぼくは抱き寄せた理由を言えなかった。目立った抵抗をしない少女の体を離す。
「じゃあ、話そうか」
「うん、まずね、神サマとサカナは結婚するのよ」
少女は、右手の小指を差しだす。ぼくは絡める。幼い約束に重圧はない。ただ、叶えたいことを叶えたいように言える。ぼくと少女は小さな頃に戻っている。そう錯覚する。
サカナの泳ぐ軌道は、いつもより穏やかで、ゾンビも伝染病も悪い魔女も現れなかった。今日はそれを必要としなくなったのだろう。
今日は特別に、ときどき、ぼくも口を出す。
お互いに知っていたことだけど、長い間ずっと、ぼくは少女を愛していたし、少女もぼくを愛していた。
今日まで結び合ってこなかった愛情を、空想の上で結び合わせる。サカナと神サマは、物語の中に永遠を作りあげる。
その作業は甘みに満ちていた。
神サマとサカナの結婚式は、水が溢れるベランダで行われました。
階下にあつまった群衆は心から祝福します。だって、みんな知っていたのです。神サマとサカナはずっと、ずっと、こうしたかったのだと。
でも、そうは出来なかった。
永遠を欲しがるあまり、お互いを欲しがってそれが一瞬になることを恐れていたのです。
今は違います。今は、神サマもサカナも、シルバーリングをキラキラ輝かせて、お互いも永遠も欲しいのだと、素直に公言してみせています。
神サマとサカナに何があったのか、群衆は知りません。けれど、それでもいいのでした。
二人は子供を二人もうけるはずでしたが、二人目のはずの懐胎で双子を授かったので、三人子供をもうけることになりました。
神サマとサカナは、質素な印象の一軒家で、強気な長女、しっかりした次女、賢い長男、それぞれをよく愛し、お互いを愛する、幸せな夫婦になりました。
そしてそれは、夫婦の寿命が同時に尽きるそのときまで、続いていくのです。
「あはは」
続いていく生活の空想は、ほとんどが現実準拠になっていて、つい、途中で笑ってしまった。流石『未来の話』と銘打っただけある。ぼくは神サマなのに稼ぎはそれほど多くないし、少女はサカナなのに焼き魚をしょっちゅう出すのだ。
「んー、これからがいいところっ」
少女の話す運動会の一件は、もう少しでオチに到達するらしい。
話し込んでいる間に、太陽がてっぺんから落ちていった。
もうすぐここは夕陽に染められる。
近くの公園の木が、今ではお弁当のパセリに見えていた。きっと、そうやって世界を作っている。
いつものようにぼくと少女の目の前に、ぼくが作った世界が見えて、浮かんで、感じて、聞こえているわけじゃない。
でもなぜか、今日が一番しっくりくるのだ。
ぼくと彼女が知らず知らずに密着しているせいかもしれなかった。
ずっとこうしたかった。ずっとこう出来なかった。ずっと近づきたかった。近づいて離れがたくなるのが怖かった。
体温がじわりじわりぼくを浸食していく。いや、違う。彼女と触れ合っていない部分が水の冷たさに浸食されているのだ。
完全に太陽が落ちる頃には二人とも、歯が噛み合わなくなっていた。
もう昇らない陽をぼくらは惜しまない。だって、そんなことをしている暇があったらこのお話を続けないと。
ふと、話が途切れて、少女が立ちあがる。体温が惜しくてぼくも立ち上がった。
「見てっ」
顔色が随分青くなった少女が喜色を浮かべる。指差されたベランダの水面には、星空と月が映っていた。
「確か、映画でこんなシーンがあったね」
昔見たアニメ映画で。広い場所で。
「縮小版だね!」
弾んだ声と仕種。少女はやっぱり、少女だった。
飽きず、下にある星空ばかりを眺める。下を向き続けて首が痛くなってもただただ見続けた。
「子供たちもきっと喜ぶよ。次女が写真、撮りたがると思う」
「そうだね」
次女のカメラは、おじいちゃんのカメラだった。ぼくの父は写真を趣味に、母は音楽を趣味にしていたのだ。
ぼくの両親は事故で亡くなった。ぼくは一人で続きを生きていくことにはなったけど、少女のようになることはなかった。
ただただ失ったことが純粋に悲しくて、しばらく泣き続けていた。
父の撮った写真は変わったものが多く、それを評価する人間も多かった。けど、自動車の中で焙られながら両親が守ったのは、正攻法での写真下手さを体現したような、家族写真のフィルムだった。
結局焦げて使い物にはならなかったけど。それでもその愛情に、ぼくは護られた。
次女はその綺麗な風景を写真に撮りました。たくさん、たくさん撮って、残しました。
次の日に長女が、その綺麗な風景を元に音楽を作り、意味ありげに長男に渡します。
「わかったよ」
長男はすぐに察して、次女に写真をコピーして貰います。パソコンに撮り込んで、映像作品に仕上げるのです。
それをプレゼントしよう、と三人は考えたのでした。
結婚記念日がすぐそこなのをギリギリまで忘れていた三人でしたが、祝福の気持ちは偽物ではありません。
だって、彼らの両親はこれまでずっと夫婦でいられているのですから。一度も、途切れていないのですから。
「お父さん、お母さん、結婚記念日おめでとう!」
三人の子供たちが映像作品を見せて盛大に祝います。
嬉し涙を拭いた神サマはにこにこ、とても嬉しそうにしながら言います。
「結婚記念日は先月だよ」
思わぬオチだった。
「なんだそりゃ」
「お祝いって言ったら、こういうのが王道だと思うの」
「まー、王道もいいよな」
「なんだかんだで、王道コード進行には魅かれる。そんな感じ」
何故か例えを音楽にシフトした少女に笑う。
腹筋を中心に筋肉が揺れて、冷えた体に新しい熱を作りだした。
少女は、細い鎖骨をほんの少し張ってみせる。見慣れない、感情的な仕種だった。
それからぼくらの間を風が通りすぎる前に、ぼくは少女を、いつか見た映画のようにダンスに誘う。
「わたし、踊ったことないわ、神サマ」
「ぼくもだよサカナさん。だから、きっとこれはぼくたちだけのダンスなんだ」
「ふふ、神サマとサカナはお付き合いする前、こうやって初めて踊りました」
「過去のエピソードだね」
とりあえず体を寄せ合う。イメージに反して動きが四拍子のような気がしたけど、気にしないことにした。
これは神サマのダンスなんだから。
この世界を風景を作りあげた神サマのダンスなんだから、これがやりたかったこととして正しいと言えばこれで正しいのだ。
満月が明るすぎて眩しい。
ぼくらはそのうち体を揺らすことにも飽きてしまう。お互い飽きっぽいのかもしれない。
「サカナさん、そういえば、結婚式で誓いのキスはしたのかな」
「それはね、恥ずかしくて出来なかったのよ」
二人して赤面しながら、指を絡ませ合う。
ぼくと少女はキスをしたことがなかった。
じっと見つめ合い、いつ動いたらいいのかがわからなくなる。
瞼を閉じればいいんだろうか。よくわからない。冷え切った指と指に情熱を感じた。
「さあ、誓いのキスを」
群衆の中から誰かが叫びました。
神サマとサカナ以外の誰もがそれに賛同しますが、肝心の神サマとサカナは顔を真っ赤にして固まってしまいます。
「あの、どうしたのですか?」
誰かが尋ねます。
すると、顔を真っ赤にしてサカナは言います。
「恥ずかしいです」
神サマも頷き、同じ理由で拒否したいことを表します。
すると、また誰かが声を上げました。
「もしかしてお二人、まだ、したことがないのでは……」
物語にまた戻ってしまっていた。
少女は動揺したのか、ぺらぺらと結婚式の追加エピソードを紡いだのだ。
ぼくは、ここは神サマとして周りの環境を変えた方がいいのか、と考えそうになって、いや、と止めた。
「目を閉じて」
存外掠れた声が出た。体が熱い
少女は震える瞼を静かに下ろす。
初めてするキスは、終わりのギリギリまでとっておいてもよかったかな。そんな考えがふと過ぎったけど、ぼくは流れを堰き止められない。
神サマだって、あるのだ、止められなくなる自分が。
眠くなるのと同じ要領で瞼が下りてくる。完全に下りきる前に照準を合わせて、そして、
ぼくと少女は
サカナと神サマは
キスをした。
唇に淡い熱が伝わる。思わず喉を鳴らして唾を飲み込んでしまい、それを恥じた。
けど離れたくない。まだまだ離れたくない。動きたくない。
「ぷは」
「は……は……」
そんな思いも、無意識に止めていた呼吸のせいですぐに叶わなくなった。
呼吸を整えて、ぼくと少女は逸らしていた目を合わせる。
そして同時に吹き出した。
何が可笑しいのかはきっとぼくも少女もわかっていない。
だけど、それでいい。
「神サマ」
「サカナさん」
無意味に呼び合う。
「神サマ」
「サカナさん」
無意味に呼び合って、言葉に出来ない気持ちを声に乗せた。
届け。
そんな両親の昔話に一番目を輝かせたのは、意外にも長男でした。
長女はじれったいとイライラしていましたし、次女はちょっとさめていました。
神サマとサカナはお酒に酔っていて、けらけらと笑っています。
次の日にはきっと、お酒の勢いで昔話を詳細に聞かせてしまったことを後悔するのでしょう。
子供たちをのろけに付き合わせてしまったのですから。本来恥ずかしがり屋の夫婦は暫く雲隠れしてしまうかもしれません。
長男は酔って、なんでも許可してしまう状態の両親に、わかりきっていてこう言います。
「今の、今度作る映画の脚本に使っていいかな」
「いいよー」
明日頭痛と共に悶える羽目になる神サマは、安請け合いをしました。
寝そべって、水に漂って、ぼくと少女は星が次々に落ちていくのを眺めていた。
本当に、終わるんだなぁ。
そんな感慨がじわりじわりと浸食してくる。少女の手を握る。少女を抱き寄せる。抱きしめる。強く、強く。
ふいに、少女は口を開いた。
「あのね神サマ、言わなければならないことがあるの」
静かな声が、耳にすぅっと入ってくる。
「何?」
「……ねえ、聞いて。神サマは明日がないから知りたい? それとも、明日がなかったら余計に、知らずに済ませたい?」
ただごとではないと思った。
ぼくは少女の顔を覗き込む。少女の、無垢をたたえた瞳と唇と皮膚と髪が、そのすべてが、もう一度キスをせがんでいた。
少女は静かに瞳を閉じる。
二度目のキスは、一瞬だった。
いや、一瞬だったように思えただけかもしれない。キスをしている間に、随分と星が落ちてしまった。
月も落ちていく。
「あのね」
少女は薄い質感のまばたきをひとつして、告げる。
「本当は、世界は、サカナには見えなかったの」
ぼくは、何も思えず、続きを待つ。
「神サマの作った、なんでもある世界。素敵な世界。なんでもありで、神サマの思う通りで……そんな世界は、わたしには見えなかった。感じなかったし聞こえなかった」
「………………」
ぼくが、停止した。
少女はぼくの胸に顔をうずめて、ぼくをあやす。ぼくは少女にそうされて暫くしてから復旧を果たした。
「じゃあ、ぼくが話したのを、踏まえて、お話を作っていただけだったの?」
「うん」
ぼくは少女の顔を見たくなくて、また強く抱きしめる。体温にあやされる。
「神サマは、世界に一人きりだった……」
ぼくの呟きに、少女は反応を殺す。
「サカナは……サカナは……」
ぼくが呟くと、少女は強い語気でそれを遮る。
「サカナはいつでも、神サマの傍に居たよ。居る。これからずっと最後まで居る!」
ぼくが手を離すと、少女はぼくの頬を手で包んで、優しく微笑んだ。
「同じ世界に居られないって、それが悲しかったから、嘘をついたの。そうしたら、ずっと神サマのところに居られるって、わかったから」
「でも……」
少女の慰めとは別に、ぼくは別のことが気がかりだった。
「それじゃあ、サカナが悲しんでいたときに神サマが作って見せていたはずの世界も、全部見えていなかったの?」
サカナは、静かに頷いた。
「でも、神サマが愛しい」
はっきりと口に出す。
そして予備動作もなしに、サカナは神サマにキスをした。
空気がしんと張りつめて、何かの爆発を待つ。
ああ、なんだ、やっぱり世界はちゃんと終わる。
いや、終わってほしい。ぼくらはきっと今が一番愛し合っている。だから、終われ。
口を離して言葉にするのが面倒で、ぼくは少女の背中に手を回した。
動かなくなって、息を止めた二人の周りで動くものは、忘れかけていた溢れる水だけになった。
すべてはぼくがつくった水の世界から始まった。神サマの傍に居たいと強く願ったサカナが、世界の住人のフリをした。
でも、今の世界は、ベランダで洗濯機をぶっ壊して作った世界は、確かに共有されていた。
終われ。
終われ終われ。世界よ、終われ。
終わ
明け方勢いで書いた。これをさらにオリジナルにして完全オリジナルになったもの。
8/31 微改稿