一億総ナントカ計画

 みんなネジが外れて、どことなく楽しそうなお花畑でらんらんらん。
 一億総馬鹿化計画だなんて、自分で思い描いて苦笑せざるを得ない。
 ちなみに今私はちょっと古い人間であることに困っている。
 差別用語を平気で使っちゃうことについての苦情はお祖父ちゃんお祖母ちゃんが受け持つと、そういう約束をした。まあそれくらい、彼らの影響下にあって平気で使っちゃうんだぜ。
「あー、なんかまたお前頭の良くないこと考えてるだろ」
 そして幼馴染に見抜かれる。幼馴染属性って互換性があっていいよね。
「やー、心底きみってば幼馴染属性なんだからぁ。私はちょっと頭が良すぎるからしょうがない」
 適当に言い訳をして
「属性、とか言うな」
 と後頭部に軽いチョップを食らわされる。いつも通り、情をこめていることがわかるので安堵する。
 自分に惚れてる人って便利だ。適度に自分の拠り所に出来るし、優しくされるのは良い気分。
「ねーなんであたしのこと好きなのー?」
 悪趣味全開でつつけば、幼馴染は飽きもせずまた赤くなる。そこがきみの良いところだぜ。顔色は夕日に赤さが追い打ちされている。私はその色合いを楽しむ。
 丁度この美しい夕日が拝める時間帯のこの公園には、殆どカップルしか居ない。バカップル多過ぎる。それ故私は一人でここに来づらい。なので、この人の出番です。アッシー君じゃあないのです。でもお付き合いって言うのはずかしーです。
「そういやさ、お前の祖父ちゃん祖母ちゃんっていつの人だっけ」
「ん。平成」
 思わぬところをまさぐられてざわざわするが普通に答える。何の話しだこのやろー。
「あー、本当に昔なんだな」
 微妙な納得をされてしまった。
 私の基本的な語彙はほぼ祖父母によって作り上げられた。それは古い言葉が多くて、それゆえに差別用語と呼ばれる用語が多い。
 でも私には『馬鹿』『その派生のバカップル』『属性(人に対して)』『便利(人に対して)』『悪趣味』等を使っちゃいけないのが未だに信じられないわけで……。特に『馬鹿』とか普通じゃないかと思うんです。
「まだ悩んでるのか?」
「うん」
 ほぼやまごもりで育って、本は家にいっぱいあって、私は作家になりたかった。いや、まだちょっとなりたい。
 俯くのも所在ないので幼馴染の顔を見る。こいつを幼馴染と呼べるのが奇跡のようだ。だって、小さかったこいつが飽きずに私の元に遊びに来なければ、ただの『見知った気がするけど誰だっけ』だもの。
「……なあ」
 流石に顔を見つめすぎたか、と反省しつつ、何か言いたいと示す幼馴染の顔をさらにじろじろ、舐め回すように見る。
「例えばだけど、ずっと側に居てさ、そういうことがあったら、検閲みたいなこと、出来ると、思うんだ……」
 途切れ途切れであまりに歯切れが悪いので、私が一気に歯応え良くする。
「それは一生物ですか」
 一瞬、いや馬鹿かねきみは、と言いたくなるような奇声を発した幼馴染は咳払いしてマジで咳込んだ後こう言った。
「はい、これはプロポーズです」
 屈折しすぎて普通じゃ通じないって。作品と感情面って別なのよ!

 ここまで、私の文章練習と彼奴の検閲練習のために書いてみた。
「さくら、どう?」
 好きな作家と被るので、とか適当に言い募って絶対に呼ばなかった名前をさり気なく呼んでみてもが反応がつまらない。うーうー唸っている。
「これは……あー……」
「片っぱしっからあっげてみーな」
 悩みに油を指すと、机につっぷすようにしていた幼馴染は素早くこちらを向き、前半は自分でやってるみたいだからと前置きして、後半の駄目なところを挙げる。
「奇声とか、人に対しての屈折とかは良くないかな。っていうかよくこの短い中によくこれだけ差別用語詰め込めるよ。尊敬」
 完全にお手上げのようだ。ところで私名前呼んだんだけどそれについては如何なの! と心の中では幼馴染の座るゴロゴロのついた椅子を引きまわす。狭い書斎じゃ埃が立ちそうだ。
「でもどうせ最後にはやってくれるんでしょう」
 自分で言っててなんか恥ずかしいけど言う。好意をあからさまにして甘えるのは女子の高等テクニックらしいです。
 彼氏は引き続き唸りながら、椅子の背もたれにぐてーっと体重を預けて腕で顔を覆う。
「うー。……とりあえず馬鹿はやめろぉー」
「是と取った」
 頭の中が電波ゆんゆんしている私に向き直らず、そのままの姿勢でさくらは口を開く。
「一億総白痴化計画だったらおかしくないんだけどなー」
 私の常識では馬鹿って意味の白痴が駄目なんだけどなー。

電撃文庫マガジンのなんかあれのお題に沿って書いてみたやつ。結構? 古かったはず。いつ書いたかあやふやな程度。
何故今更うpった!? ってくらい恥ずかしい。主人公の女の子が地の文ですら照れまくって本心言わない(前半)し。
けど最後のちょっとの部分は好き。多分この子は小説家にはなれないね。
ちょっとだけ改稿。そして改題。

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