四月馬鹿

「みーくううううううううん! 今日は嘘ついて良い日なんだって! だからまーちゃん嘘つく!」
「うぇえあ、え、あうん」
 料理(修行も兼ねて)中に、急に後ろから飛びつかれて変な声が出た。っていうかまーちゃん嘘つきは嫌いなんじゃなかったの。
「でもね、みーくんは嘘つきじゃないんだよ。だから嘘ついちゃダメ」
 なんかすごくご都合主義だな。まあ、まーちゃんだからしょうがないか。
「わかった。僕はいつもどおり正直者で居るよ」
 嘘だけど。でも、こういう日くらい嘘をつかないように過ごしたくもある。天邪鬼属性というやつ。いや架空だけど。
「ふひゅひゅー、どんな嘘つこうかな。みーくん絶対騙されちゃうんだから。楽しみー」
「僕も楽しみさ。それよりまーちゃん、お昼は僕の作った炒飯でいいかな」
「えー、えーっと」
 うわ、迷われた。やっぱり僕には料理の才能はないんだろうか。なんでも食べすぎるのが原因かはたまたただの下手くそか。まさに漢の料理というやつ。
「えーっと……。みーくんの作るご飯は、おいしいから、食べなーいー……?」
 嘘でもあるけどどちらかというと逆だ。しかし間延びした言葉を発しながらゆっくり首をかしげるだけで可愛いとは、美少女さまさま。
「了解。ちょっと待ってて」
「うん、まーちゃんごろごろして待ってるのです」
 えーっと、あとどうしたらいいんだっけ。マユに飛びつかれたのが炒めてるときじゃなくて良かった。変な怪我はさせたくない。それに、やけどは不思議なくらい変な方向に痛いから。
 料理本と記憶とメモを頼りに炒飯を作って盛り付け、居間に戻る。
「みーくんおかえり!」
「まーちゃんただいま!」
 ふはは、台所と居間の距離でおかえりただいまとは、アディとチェットも真っ青のバカップルである。
 マユの前にひとつ、僕の前にひとつ、大きさの違う山がスプーンを付属させられて置かれる。
「いただきます」
「いただきます」
 湯気の立つ炒飯を口に運びながら、少し不審だと感じた。美味しい。進化するようにいきなり美味しく作れるようになるとは思ってなかった。
「みーくんのごはん、えーと、個性的な味ですな」
 マユが嘘をついているのかまったくわからない。今日は僕の舌がおかしいのだろうか。
「あーごめんまーちゃん、僕の負けだよ。だから本当のことを言ってほしいな」
「んーにゅふふ、まーちゃん嘘つきさんなのです」
 あ? あれ? マユがちょっと、あ。寒気がする。
「あれ? まーちゃんが、嘘つき? 嘘つきは、大嫌いで、えーっと」
 マユにその先を言ってほしくない。あああ、どうしようどうしようどうしよう、今日こそマユが、今度こそマユが壊れてしまって稼働できなくなってしまう気がする。
 あの家に行っても、僕がまた何かを差し出してもマユが傍に居てくれなくなるような、
「嘘つきは、死んじゃえばいい」

 そんな、こういうことは嘘で、嘘じゃないと!
 目を開けると、そこは春ではなかった。マユは僕のすぐそこで静かに寝息を立てていた。目が白黒している。動悸ヤバイ。
 また夢落ち、か。でも、今回は悪夢ではないかもしれない。決して、心を休ませる夢ではないけれど。

たまにはどうか、幸せな嘘を!

4月1日に書いた。

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