Re-birth

「ねぇ、みーくんはプレゼント何が欲しい?」
 唐突なるマユの問いに、僕は菜箸を取り落としそうになる。みーくんの誕生日? いやクリスマスとかバレンタインとか退学祝いとかかもしれないぞ。流石に最後の嘘は無理があった。
「うーん」
 何が欲しいのか考えるふりをしながら、自分では随分上達したつもりの料理を運ぶ。
 結局、解せぬ、の方が上回って質問に質問で返した。みんなは真似しちゃ駄目だぜ?
「何のプレゼント?」
 まあ、その如何によってねだるものは変えた方がいいだろう。言い訳だけど。
「みーくんとまーちゃんの記念日!」
 当然のように言い放たれるとまるで僕が鳥頭のようだけどそんな日設けた事実はない。はずだ。
 一応、僕の記憶力不足の可能性も考慮して、他のことも尋ねる。
「いつだい?」
「毎日!」
 オー,マイダーリン! 僕が馬鹿だったよ。
「まーちゃんはねぇ、毎日ちゅーでしょ、デートでしょ……」
「おっとまーちゃん、五つ以内で頼む」
 反射的に数を制限する。咄嗟に出た数字がランプの魔人と違うのはキャラ被りに対する考慮だろうか。
「むー、しょうがないなぁ」
 ぶつぶつと、唇を尖らせてマユは受け入れてくれた。そう、ランプの魔人より甘いのはこれを見越してのことさ! ←照れ隠しの嘘。
「まーちゃんからは後で決めます! みーくんはすぐ決めなさいです!」
 えー。でも理不尽が形を成したかのような状態のマユに不満を訴えたところで仕方がない。
 だから僕は、
「それよりご飯だー」
「むぎゃー!」
 食事に逃げた。

 そして、「んもー、みーくんのお料理の進化はのろのろさんっ」などと満面の笑みで批評を頂戴し洗い物を流しに突っ込んだのちの昼寝の番なうなのであった。
 ヤング故のシエスタだ。嘘、嘘。
 マユの頭と手と肩と首をふとももに感じながら、ソファの上で彼女の髪をすく。
 死んだように眠るマユの、生きている柔らかさとあたたかさに息を吐く。
 もしも安らぎのため息で幸せが逃げるというのなら、僕は今日までの生活でどれ程、ささやかな幸福を損失してきたというのだろう。そう思うと取り返す準備の一環として配管工にジョブチェンジしてしまいそうな程だ。嘘含有。
 マユにしては浅く眠っていたのか、ふいに耳が羽ばたく。
「ん……」
 無意識に撫で回しすぎたかな、などと懸念しながら、僕は薄く薄く開き始めた目を、覗き込む。
 黒く、長い睫毛に彩られ、下まぶたのくっきりとした曲線に区切られた虹彩を見つめる。まるで、何かの誕生でも待つような気持ちだ。
 震えるまぶたが一度閉ざされ、もう一度開かれる。
 そしてマユはタチの悪い嘘のようなことを、寝惚け眼で発した。目、目からビームなのだ。
「あれ? みーくん、××くんは?」
 口からバズーカ(比喩表現)が出そうになり、目の前がパンダ色になる。
「……………………え?」
 僕がやっと聞き返すと、またマユはとろとろと意識を閉ざしていく。その、瞳が再び見えなくなるまでの数秒、その途切れ途切れの音声に、僕は全身を研ぎ澄ます。
「もう…………いじめっこ……いない……から…………だから……」
 そうして、マユはとても安らかな寝顔になった。
 でもそれは幻のように一瞬で消え失せ、いつもの無の寝顔に戻ってしまった。…………ん? じゃあさっきのは嘘オチ?
 いや、そんなはずはない。嘘オチだったら一体誰が僕の耳に放火していったっていうんだ(激おこぷんぷん丸)。
 頬を掻いて、痒くて。
 それでも心中は複雑だった。
 何せ、僕は自分に嫉妬しているのだ。
 だって。埋葬されてる癖に。みーくんしてない癖に。
 ぼくの方はというと、土の中で同じく埋まっている御園マユの手をうぞうぞと触覚だけで見つけて、大事に指を絡めて浮かれている。
 どうしろというんだと頭を投げ飛ばしながら、ぼくの心象風景を真似てマユの指を絡め取る。前半の動作は勿論嘘なんだけど、でも、彼女もまた、埋葬されたまま生きているのだろうか。
 マユの手首をさぐりさぐり、脈を、親指で感じ取って。
 日が沈んでマユがまーちゃん活動を再開するまで、たっぷりとプレゼントを考え、そして思いを馳せた。
 だから僕は洗い物なんかをしながら、嘘も躊躇いもなく言ってしまう。
 マユが目をまんまるくした様なんて、写真に収めたいくらいだった。
「ねぇまーちゃん、ぼく、きみとの子供が欲しいな」

 以下、わっふるは無駄である。

桐島が部活やめる話読んでて思いついて、そういえばこういうのも考えたなって思い出して、そして書いた。
昔考えたお話がベースなので本編とズレがありそうな気がしてる。あんなに大好きだったんだけど。

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