風の音、雪が叩きつける音。
吹雪がこんなにも煩いということに、あたしはやっと気がついた。
流したそばから涙が凍り、叫んだ傍から言葉が掻き消える。
二宮さんは子供のように泣きじゃくるあたしを抱きしめながら、他の人と会話をしている。
あたしはその腕の中で、あの一度だけの夜のことを思い出す。
そう、その行為自体には何も思わなかった。ただ「こんなものかあ」なんて、それくらいで。
今思えば当然だ。だってあたしは、自分がどうしてほしかったのかわからず抱いてもらってしまっただけだったのだから。
なのにあの日の二宮さんは、あたしが一番してほしかったことを与えてくれていた。
一晩中抱きしめていてくれたことが、ほんとうに、死んでしまいそうなくらい嬉しかったことを、あたしはやっと思い出した。
二宮さんやほか何人かのボーダー隊員は、連合の救助隊の一員としてここに来ているらしかった。
人探しと情報交換のために参加していると、二宮さんはあたしに向けての説明を挟む。
ここに来るまでにも何人か、取り残された人々を保護しているのだという。
滅びてしまった、この国で。
この国が戦争に負けだしたのと、冠トリガーが不調を来したのとは、ほとんど同時だった。
ただでさえ雪深いこの国は吹雪に覆われ、ライフラインも通信も、あっという間にブツ切りになってしまった。
あたしも、どさくさのうちに気づけばひとりきり。
戦況もわからず、助けが来るかも分からない中、諦める踏ん切りをつけられずに潜伏していたのだ。
保護されたあたしは一度他の難民と同じように扱われ、やがてボーダーに引き渡された。
処遇はそのうち決まるという。記憶封印措置は避けられそうにないと、正直に伝えられた。
拘留と保護の中間くらいの扱いで与えられた小さな個室で、あたしは随分と眠りこけていたらしい。
こんな違反者が、忍田本部長にまで心配を掛けてしまった。
しばらくしてやっと面会が許されたという二宮さんもずっとムッとした顔で、今、あたしの前に座っている。
「体調はもういいのか」
「やたらと眠い意外は全然大丈夫です」
そんなやりとりを皮切りに、二宮さんは隊の近況や町のことを教えてくれた。
あの日の定食屋さんは、店主さんが腰をやってしまって休業中らしい。
やがて言葉が途切れると、二宮さんは最初の質問と似て非なる言葉を、ポツリと口にした。
「……大丈夫か」
あたしはそれだけで、全然大丈夫じゃない自分を自由にしてあげられる。
だけど縋ってばかりはいられない。
「大丈夫じゃないけど、大丈夫です」
これからあたしは、この人や仲間たちに、ごめんなさいとありがとうを伝えなくてはならない。
雪に埋もれて消えずに済んだものを、少しでも。記憶封印措置までに。
はくせつ。と読みます。