終わり方は別に悪くなかったと思う。ただ、具体的なことを思い出すのも面倒になるくらい時間が経って、終わったあの時間が良いものだったのか取るに足らないものだったのかわからなくなっただけで。
目を開くと天井と目があった。そんなに変なことでもない。床があったら嫌だ。いや、下向きでも見るのは布団だけど。
セットしておいた目覚ましを見ると、まだ鳴る五分前だった。あと五分ー、なんてことはせずに止めて、とりあえず起きて支度をする。
日当たり良好で一人で住むには結構広いマンション。今日も変わらず本とかゲームとかそういうものだらけ。書斎はいっぱいです。地震が来たら本に埋もれて死ねる。もしかしたら二次元に行ける。なんて至福。
そんな至福を夢想しながらも永眠はまだあっち行け、だ。
今日は新しい至福の素材が恐らくお店に並んでる日で、わくわくしながらお店に取りに行く日。
発売日じゃないのはご愛敬。ネットのオタク仲間の情報網をお借りしました。いつもは偶然見つける時以外発売日って事にしてるけど、今回は流石にちょっと続きが気になりすぎるのです。
携帯を取り出してチェックする。何も来てない。ということは予定通りで良いだろう。ゆっくり支度して、玄関を開けて外に出た。
今日はぽかぽか暖かい。散歩するような気持ちで待ち合わせ場所まで歩く。あの後どうなったんだろうと考えるとにやにやしてしまう。その後ゆっくり妄想するのも楽しい。噛めば噛むほどというやつである。二次元覇者である。ただし妄想だけなら三次元でも可能なので、ある意味ワールドイズマイン。
待ち合わせ場所に着くと誰もいない。一応、と思い携帯を開いたら、メールが入っていた。
『ごめん狩沢。急な仕事が入った。今度埋め合わせする』
大体そんな内容だった。
今日の待ち合わせの相手は高校時代からの友達で、私と違って自由業じゃないので、こういうことも結構あるしそもそもそんなに会わない。いや、社会人になってからの割には会う方なのか? と考えてみてもピンと来ない。
ほぼ毎日つるんでたんじゃないかってくらいの人たちが居たからだ。だから、普通の基準みたいなものに手が届かないんだと思う。なんとなく痒いところだ。
目的地に行って、買い物を済ませる。色々と萌えとか妄想とか購入の楽しみとかポイント貯まったとかそういうのはあったが、書いてるとキリがないにも程があるので省略。
どこかに寄ろうかどうしようかと考えながら大体家方面に向かって歩いて、途中のファミレスに入る。お腹すいた。
お昼近かったせいで待たされることになった。仕方ない。名前を書いて座って待つ。あとちょっとで呼ばれる、というところで、見覚えのある髪色が目に入る。
「あ」
「あ」
目が合った。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
とりあえず挨拶をする、その薄い色の髪をした彼も返す。
気まずくなってもしょうがないので、私の名前を呼ぶ店員のもとへ行く際、彼も一緒連れていくことにして、袖を引く。
「待つのもなんでしょ。相席しちゃおう」
「あ、はい助かります」
そんなお礼の言葉を聞きながら、あー全然変わらないなーとほんのり郷愁に浸る。
そんな郷愁もつかの間に置き去り、席について注文を済ませると、水をちびちび飲みながらオタクトークに花を咲かせはじめる。
というか咲かせざるをえない。だって趣味一緒なんだもん。
「――……でー、あの台詞は、多分デレでいいと思うんですよ。地の文ではああでしたけど」
「えーちょっと待って、あそこは地の文通りでいいと思うんだよね。主人公の語りが信用出来ないのも確かだけど、ああいう場面ではなんだかんだ勘いいじゃん」
「いやいやいや、乙女心はあの主人公には難解すぎるってこともありますよ」
「ふふーん、甘いね、あれは……――」
オタクトークが白熱して悪ノリが出そうなくらいのタイミングで、料理が届く。
しかし料理が届いても、ちょっと食べてる間黙る程度でオタクトークは変わらない。相手が喋ってる間食べてればいいだけだし。
「――……あの作者の癖はさ嵌ると抜け出せないよね。なんか飽きる飽きないの次元じゃないっていうか」
「そうそう、なんか不思議な感じなんですよね」
「その分つまんないーって言う人からすると面白さ全っ然わかんないらしいけどね。今日待ち合わせしてた友達も分かんない口だった」
「へえー。知り合いもわかんないって言ってましたね……――」
一通り話して一息ついて水を飲む。
そのときにふと思い立って聞いてみる。
「そういえば最近どう?」
「どうって、変わりありませんよ。狩沢さんこそどうなんですか」
「私は全然。他のみんなのことは聞いてる?」
「ああ、この間ばったり会った折原さんに聞きました」
突然出てきた名前にちょっとびっくりして、でもあんまり関係ないのでちょっとからかう方向に向かう。
「へえー、結構ぼったくられた?」
「いえ、タダです」
「え!?」
思わず変な声が出た。
しかし、続きを聞いてそうでもなくなる。
「門田さんとは同級生だったってのもあってちょっとは負い目があったみたいですよ」
「なるほど」
しかし負い目とは……あれって結構前のことだし、もう気にしていないものだと思っていた。だって何かが致命的に変わってしまったとして、それが日常に溶けてしまえばそれは本人だけの過去になる。例え彼を中心に仲が良かった私たちがそれぞれ別々にしか生きられなくなっても、同じ。
それに、別に負い目なんて……私もすぐに報復を諦めたくらい、仕方ないことだったのに。
ふと前を見ると、顔に出ていたのか、ちょっと笑われていた。
「む、笑うことないじゃない」
「いやいやいや、それを聞いたあとは私もしばらく遠い目になったので」
「ふうーん。へえー」
「怖いですやめてください」
おどけてきゃーっと防御のポーズを取られる。まあ、いっか。
落ち着いてきたので、私は提案する。
「そろそろ帰ろうと思うんだけど、どうする?」
「あ、そうですね。こっちもそうします」
こうしてこんなソファから立とうとすると、二人でよく行ったメイド喫茶を思い出す。懐かしいけど含み笑いは怪しいのでお預け。
お会計は私が小銭を結構持っていたのでぴったり払えた。
外の空気が少し冷えていて、結構長く喋っていたことに気づいた。
「それじゃ、この辺で」
彼の言葉に、私は手を振って返す。
「うん、じゃあ――」
向かう方向が反対だということが分かる。もしかしたら、住居も変わってないのかもしれない。
「ばいばい、遊馬崎」
またねなんてそんなこと、言わなかった。
これがラノベやアニメなら、『物理的に会えるんだから会っちまえよ!』と、実生活を心配したくなるような、距離感を無視した感想を投げつけられるんだろう。ちょっと笑えた。
それにそもそも、またつるんだとして、前くらい良い時間が築けたとして……それがどれくらい良い時間なのか、もう分からない。だって私、二次元があれば概ね満足ですから。
ただ、あのときは二次元ならバッドエンドだったんじゃないかと思うことはある。
ハッピーエンドにしろバッドエンドにしろ、続きが描かれないというだけの、それまでとの違いだ。三次元にそんなもの最初から望めないことも、とっくに知っていた。
少し風の通りが良い気がした日もあったけど、エンドロールを探す気にはならなかった。
音楽でいうところのドローンというやつをイメージしてみた。
けみぃさん宅で開かれたゆまかりチャットで出てきた話し(離れ離れバラバラネタ)なのに萌え要素も人好きする要素もないですがわたしは満足です。
終わっても終わらない話。
あと確か、一緒じゃないといられないぜ萌え成分が多めの茶だったので思わず別の可能性を開拓したくなってしまったのもあったと思います。
居なくても大丈夫だけど敢えて一緒にあそぼーか、っていうのが最近のマイブーム萌えなのです。のです。