ずっと、まだまだ新人で信用が足りないからだと思ってた。
だから、マスクの外し方を教わってないんだと。
「多分口で引っ張っても取れるから」
暴力さんの簡素な説明を、私はすぐには理解できなかった。
いつでも外せる毒のマスクを律儀につけ続けてたのだと理解したのは、パーカーのフードを口で退かし終えたときだった。
私は暴力さんの優しい声を聞きながら、何かへの苛立ちもこめてマスクに歯を立てる。
――デンジ君のスターターが引かれる音が、ひどく遠くに感じた。
時間がない。毒が抜けてから仕掛けるなら尚のこと、すぐ外さなきゃ。
私が必死でマスクを引っ張ると、それは思うほか簡単に暴力さんの膝に落ちた。
やけに静かで、時が止まって感じる。
――ビーム君の声がしない。
私は目が四つある顔にも特に驚かず、悟ったさいごを前に、キスがしたいななんてくだらないことを思う。
無意識に呼んだ声の中の思いは見抜かれて、すぐに優しく拒絶された。毒が残ってるからと。
――あのパワーちゃんが静かに呻いてる。
死んじゃうのは怖いけど、原因を選べるならあなたがいい。
なのに暴力さんは、キスもしてくれない唇で「好き」だなんてずるい理由を添えてもう一度拒絶を口にする。
ほんとうに、ずるい。
私は、
――二人分の果敢な足音が飛び上がって、斬って落とされる。
私は、
――暴力さんが吠えるのが聞こえた。
私は何も言えず、気づけばいつものように生き汚く動くだけだった。
ついぞ一度も触れなかった唇の感触が、やけに生々しく残る気がした。
気がしただけだった。
何故ならあなたには人生があるから。